◆春模様
冴え渡る霜に満月薄荷の香恋しい春の眠たき紫煙
(欄干で煙草の遺志は優雅なる自殺志願者の背に羽根授く by.ごめさん)
花の香が春の空気を湿らせて滴る蜜にいのち群がる
目を開けてとく見よとく聞け微かなる鯨の歌が聞こえるうちに
別れとはまた来ん春と謳われぬ手向けに傾くグラスの冷たき
宵の路に誰とも知れぬ歓声が弥生浮世の袖摺る祝盃
今生の一夜の春を分け合ひぬ
開花せむその喉笛を折る人よ勿忘草の夜露はかなし
◆憧憬
星影のさやけき帷翻す春風わたる原初の草原
微睡みの目蓋の裏に透明な母のしとねを恋しがるゆめ
寂しくて人になりたいたましいをキルルキララと巻き上げる螺子
◆冬景色
冬の陽に輝く水面に弧を描く梅の枝先に春まだ眠りぬ
吐く息でぬくめた指に融けてゆく椿の赤も淡雪もみな
夕闇に垂れ込めた雲の暗さから浮き出す晴れ間薄明のそら
東京のビル風の音は海鳴りにどこか似てます夏帰ります
すみません、センセはただいま感冒で。お休みになり三日経ちます。
煙草なぞ美味くもないが厳寒のベランダの月が我を手招く
◆憂鬱
シイドルの泡に崩れる砂糖菓子我暗澹と詩を忘れむ
色褪せて乾いた花束抱くたび門出瑞々しき日を想う
仄暗い針葉樹林に置き去りの足音だけが忘れ得ぬひと
ぼんやりと今日の朝餉の味噌汁に浮く手毬麩のちいさな不安
うそつきの外套一枚引っ掛けて生きづらい日の寒さを凌ぐ
◆日常
友人と遊ぶ
清廉と倒れる姿とりかへばや楠みたいに人は生きれぬ
(友人の「排気ガス吸いて育ちし楠も切らるるときは清き芳香」を受けて)
初恋は見世物小屋に吊るされし硝子の瞳白百合の君
金色の君の指は寂しくて玩具の螺子はそこで待ってる
藪かげに延びる向日葵オレンヂの晩夏の空にひとり寂しく
出張にて
微睡みのあわいの車窓は万華鏡いずこかしらの街銀化粧
吹雪から雲の切れ間の蒼さまで雪跳ね上げて駆けよ特急
黒革の鞄提げスーツ着た我を手招く水の眩しさ
◆恋歌もどき
この服で貴方と会ったあの服もクローゼットに積もる思い出
花咲ける雪の格子にくれなゐの接吻おとして君はひとりで
「愛してる」お願いひとこと嘘でいいそしたらあたし生きていけるわ
◆ほか
エフェメラよ古書の間に間に微睡みて君はいっとう時知る蜉蝣
◆二次創作
愛音に捧ぐ
かなしみを極小の海とうたうなら溺れた君はいずこに沈む
塩辛いその眦に金魚の尾いつしか君は人を忘れた
水面に霞む光はきらきらと届かぬ夢を見上げる溺水
アクリルのまぢかに揺れる君の国その冷たさを知り得ぬ孤独
君の目が君の声が指先がそこに在るのに果てない五センチ
皮膚という檻に仕切られ混じり得ぬ血潮の海のさみしい水槽
擦れ違う君の脳漿の中に居る赤い魚の名前が解らぬ
瓶詰めの闘魚の群れか人はみな孰れ水へと還る旅人
声のほか全てを寄越せと魔女が言い彼の歌だけが人魚の弁証
文豪とアルケミストに寄せて
寂しげな君と僕との袖触れる北の果てなる夏至の夜のそら
いずこかで君の眠れる揺り籠は僕の足下で音なく廻れり
傷ついて覚めぬ悪夢に泣く君の歯車うつす涙の鋭利
「泣いてたろう」戯けて君が差し出した青い小石が枕にポタリ
命与う愛も憎悪も諸共に永遠の春なれ愚者の箱庭
エフェメラよ書架の間に間に面影の揺らぎをかくも無力な我が手 (栞課金とは何なのか)
幽玄を愛せし兄の後ろ髪黄泉路の誘いに魅かれて陽炎 (秋→鏡 鏡花きません)
前を見よ前ばかり見よ頑なに盲信の先に神宿るらん (志賀担の友人へ)
寒風にふわりと跳んで戻らない僕の憧れ夢また言葉 (しげじ担の同志へ)